「最初にお金を払えば将来定期的にお金をもらえる。しかももらえるお金は年々増えていく」ということを考えるのが定率成長割引モデルです。
本記事では同モデルの基本式、
P=$\frac{D}{1+r}${1+$\frac{1+g}{1+r}$+$\cdots$+$(\frac{1+g}{1+r})^{n-2}$+$(\frac{1+g}{1+r})^{n-1}$}
の導出のための考え方のほか、
「永遠にお金をもらえるならいくら払えばいい?」という問いにも言及しています。
株式運用に役立つ内容なので、数学が苦手な人、嫌いな人、文系の人、にもぜひご一読して頂ければと思います!
目次
立式の方針
この問題は「毎年お金を貰える権利を買うためには今いくら必要か?」という問いに答えることになります。
立式の方針としては一般的な形で「n年後のお金の状態」を考えていくことになります。
手始めにn年間でのお金の成長について考えます。P円でその権利が買える場合、割引率をrとするとn年後にはP(1+r)$^n$円に成長します。詳しくはこちら。
定率成長配当割引モデルの基本としては「この P(1+r)$^n$円 を一括でなく、毎年少しずつ分けてもらう」感覚ですので、
P(1+r)$^n$円 =毎年もらえるお金の合計
の形の立式をすることで公式を導いていきます。
それでは右辺の毎年貰えるお金について考えていきましょう。
「毎年もらえるお金が増えていく」ことを数式で表す
初めにP円を払えばそれ以降、定期的にお金がもらえる状況を考えます。初年度にもらえる金額をD 円とし、さらに今回は「定率成長」なので成長率をgとします。
もらったお金を利息rの銀行で複利運用する状況をイメージすると、以下のような増え方をします。
時間 | 銀行の残高 |
買った瞬間 | 0円 |
1年後 | D円 |
2年後 | D(1+r)+D(1+g)円 |
3年後 | {D(1+r)+D(1+g)}(1+r)+D(1+g)$^2$円 |
4年後 | {D(1+r)$^2$+D(1+g)(1+r)+D(1+g)$^2$](1+r)+D(1+g)$^3$円 |
$\vdots$ | $\vdots$ |
n年後 | D{(1+r)$^{n-1}$+(1+g)(1+r)$^{n-2}$+$\cdots$+(1+g)$^{n-2}$(1+r)+(1+g)$^{n-1}$} |
n年後のところが少しわかりずらいでしょうか?4年後の残高を式変形してみると、
D(1+r)$^3$+D(1+g)(1+r)$^2$+D(1+g)$^2$(1+r)+D(1+g)$^3$
さらにDでくくって見ると、
D{(1+r)$^3$+(1+g)(1+r)$^2$+(1+g)$^2$(1+r)+(1+g)$^3$}
となります。この形から規則性を推測すると、基本的には(1+r)$^X$$\times$(1+g)$^Y$のような形をしていて、肩のXはどんどん減って、Yはどんどん増えていることが分かります。
この規則性から推測されるn年後の残高は、
D{(1+r)$^{n-1}$+(1+g)(1+r)$^{n-2}$+$\cdots$+(1+g)$^{n-2}$(1+r)+(1+g)$^{n-1}$}
ということになります。
右辺=左辺を作ってみる
「定率成長」でn年間
お金をもらった合計のD{(1+r)$^{n-1}$+(1+g)(1+r)$^{n-2}$+$\cdots$+(1+g)$^{n-2}$(1+r)+(1+g)$^{n-1}$}円に対して、一番初めに支払うべき適正価格をP円とします。P円はn年間でP(1+r)$^n$円に成長するので、
P(1+r)$^n$=D{(1+r)$^{n-1}$+(1+g)(1+r)$^{n-2}$+$\cdots$+(1+g)$^{n-2}$(1+r)+(1+g)$^{n-1}$}
という等式で結べば、同じ現象を異なる2つの視点で見ていることになります。P=の形にするために両辺を(1+r)$^n$で割ると、
P=D{$\frac{1}{1+r}$+$\frac{1+g}{(1+r)^2}$+$\cdots$+$\frac{(1+g)^{n-2}}{(1+r)^{n-1}}$+$\frac{(1+g)^{n-1}}{(1+r)^n}$}
となりますが、分母の(1+r)を1個だけ{}の外に出せそうなので、
P=$\frac{D}{1+r}${1+$\frac{1+g}{1+r}$+$\cdots$+$(\frac{1+g}{1+r})^{n-2}$+$(\frac{1+g}{1+r})^{n-1}$}
となり一番初めに載せた公式が導出できました。
永遠にお金をもらえるなら?
一回だけお金を支払えばそれ以降永遠に、毎年お金を貰える(しかも増え続ける)権利がある場合、最初に支払うべき適正な金額はいくらでしょうか?
この問いに答えるためには、先ほど導出した公式においてnを∞とすれば良いです。
高校数学でいうところの数学Ⅲ「数列の極限」になります。
まず手始めに、導出した公式の右辺の{}内部をよく見ると、以下の等比数列の和の形になっていることに気づきます。数Bの教科書に載っている「数列の和の公式」を引用すると先ほどの式は、
P= $\frac{D}{1+r}$ $\{\frac{ 1-(\frac{1+g}{1+r})^n }{1-(\frac{1+g}{1+r})}\}$
となります。
ここでg<rを仮定します。すなわち「毎年貰えるお金の成長率gは利回りrよりも小さい」場合を考えます。
この仮定のもとでn→∞とすると右辺が収束して、
P= $\frac{D}{1+r}$ $\{\frac{ 1-0 }{1-(\frac{1+g}{1+r})}\}$
となります。もう少しだけ式変形すると、
P= $\frac{ D }{r-g}$
となりかなりきれいな形となりました。
この式の意味は「利回りrの環境下で、『初年度にD円、それ以降成長率gで貰える金額が増える』ような権利を買う場合、一番初めにP円を支払うのが適正価格」と考えることができます。
ここで先ほど”成長率<利回り”という過程をしましたが、逆に ”成長率>利回り”ではどうなるでしょうか ?
この場合数学的には数列の和が無限大に発散してしまうことになり、「支払うべき価格Pは∞円」ということになってしまいます。
現実的には∞円は誰も支払えませんので、 ”成長率>利回り” のような商品を見つけたら詐欺を疑いましょう(笑)
まとめ
今回は 定率成長割引モデル の式を導き、また∞年に渡ってお金をもらいたい場合には P= $\frac{ D }{r-g}$ 円を支払えばよいということがわかりました。
今回は高校数学Ⅲの極限の範囲が出てきましたし、それ以外の数学の内容も難しいものがあったかと思います。
「難しすぎだ!!」「ここの式変形がわからん!!」などございましたら是非コメントで教えていただければ嬉しいです。
今回の記事の内容は以下の書籍を参考にしております。より詳細な内容を知りたい場合はぜひご購入ください。
価格:790円 |
価格:470円 |
【中古】 株式投資入門 ビジネス・ゼミナール/井手正介【著】 【中古】afb 価格:200円 |